2014年1月1日 第180話             

和食

 
 
 経に曰く、「もし能く食において等ならば、諸法もまた等なり。
  諸法等ならば、食においてもまた等なり」と。まさに法をして
  食と等ならしめ、食をして法と等ならしめしむ。[赴粥飯法]


和食がユネスコの無形文化遺産に登録されました

 昨年12 月4日に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。登録されるのに京都の料理人が中心となっているNPO法人の「日本料理アカデミー」が始めた運動がきっかけとなったことから、最近は老舗料亭がよくマスコミで紹介されるようになりました。

 無形というのは、かたちのないものという意味です。今回登録されたのは、無形の文化である「食に関する習わし」を、「和食・日本人の伝統的な食文化」と題して、ユネスコの無形文化遺産に登録申請されました。食の分野では、フランスの美食術、地中海料理、メキシコの伝統料理、トルコのケシケシの伝統が登録されています。

 日本には多様で豊富な旬の食材や食品、清らかな水、風土に適した発酵技術、栄養バランスの取れた食事、年中行事や人生儀礼との密接な結びつき、などの特徴をもつ素晴らしい食文化があります。日本の食文化については、世界的に見ても特徴的であり、諸外国からも高い評価を受けています。ユネスコの無形文化遺産に登録されたことは、日本の食文化が世界から認められたということです。

 日本では食生活が洋風化し、外食産業が拡大するなかで、和食離れが起こっていますが、ユネスコの無形文化遺産に「和食」が登録されたことによって、日本人の食生活や食文化が見直されるでしょう。
 海外では健康志向から日本食ブームが起こっています。外国人観光客の増加や、農水産物の海外輸出拡大の契機になり、原発事故の風評被害を受けた日本食や食材の信頼が回復されたらよいのですが。

「和食」とはいったい何なのか

 日本料理とは日本でなじみの深い食材を用い、日本の風土の中で独自に発達した料理であり、日本風の食事を和食と呼ぶ。「和食」について広辞苑には、日本風の食物、日本料理で洋食の対語とされている、とありますが、「和食」とはいったい何なのかということが、世間ではあまり理解されていないようです。 農林水産省のホームページには「和食」について、つぎのような説明がありました。

①多彩で新鮮な食材とその持ち味の尊重
 日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情豊かな自然が広がっているため、各地で地域に根ざした多様な食材が用いられています

②栄養バランスに優れた健康的な食生活
 一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスと言われています。また、「うま味」を上手に使うことによって、動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿、肥満防止に役だっています。

③自然の美しさや季節の移ろいの表現
 食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを表現することも特徴の一つです。季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、季節感を楽しみます。

④正月などの年中行事との密接な関わり
 日本の食文化は、年中行事と密接に関わって育まれてきました。自然の恵みである「食」を分け合い,食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきました。

 ユネスコの無形文化遺産登録が対象とするのは、無形の文化であり、今回登録されたのは「食に関する習慣」で、特定の食事でなく食事をめぐる文化が登録されました。
 「おせちが和食かどうか」でなく、「正月におせち料理を食べるという文化」、「おめでたいときに赤飯を食べる文化」です。「会席料理」でなく「人をもてなすときに会席料理を出す文化」これらを「和食」として登録されたのです。

「いただきます」と「有り難い」が和食を支えています

 古来より新年には鏡餅をお飾りする習慣があります。重ねた餅はめでたさを表し、海の幸、山の幸も添えて、新しい年の 豊かな実りとこの一年の無事を願います。また、古くは鏡餅を分けて食べる事を「御魂(みたま)分け」といい、歳神様の魂を分けることから、「歳魂(としたま)」が転じて「年玉」の名前がついたともいわれています。
 供え物には祀った神霊の分霊が宿るとされ、それを頂くことにより、人々は力を更新して新たな一年に備えるのです

 日本の伝統的な正月料理であるお雑煮は、歳神様に供えた餅を神棚から下ろし、野菜や鶏肉、魚介などで煮込んで作る料理で、その起源は室町時代までさかのぼります。新しい年を寿ぐお雑煮には、ふるさとの香りが漂います。鏡餅をお飾りしてお雑煮を食す、これは正月を祝う日本の伝統の食習慣であり食の文化です。

 旨味成分が日本料理の味をつくるということで、一流料亭の味の秘訣が出汁にあるとマスコミが紹介しています。選び抜かれた昆布と鰹節は丹精込めたそれぞれの産地業者の手によって、また風土に適した発酵技術が醤油、味噌,酒、酢を生みだし、豊かな和食文化を支えています。一流料亭では旨味の元となる昆布と鰹節をふんだんにつかって出汁を作りますが、捨てられていく食材がいかに多いかということは語られません。

 日本人が飽食を享受している一方で、世界には食べるものがなくて人類の一割もの人々が飢えに苦しんでいます。また日本では若者や高齢者に孤食が広がっています。学校での食育と家庭での食卓の大切さ、親の味が子に愛情食として伝えられていくことなど、食が見直されるべき時代でもあります。「いただきます」と「有り難い」という感謝の心を忘れては、和食文化は成り立たないでしょう。

日常茶飯事

 私たちはもったいないという言葉を忘れてしまったようです。一粒のお米にも、一枚の菜っ葉にも命が宿っています、その命をいただくことで生きていけるのですから、食べ物を捨ててしまうなど無駄にはできないはずです。
 また、好きな食べ物、高級な食材に心ときめかせ、嫌いな食べ物や粗末な食材だからと粗雑に扱うことなく、それぞれの食材の持ち味を楽しむべきです。

 近年は季節を問わずあらゆる食材が年中出回っていますが、食物には旬があるというということも、栄養のバランスにも心すべきです。お台所は料理する人の心を映す鏡ですから、食器は自分の目の玉の如くに大切に扱い、台所は清潔に保たねばなりません。盛りつけ方にも心を配る気持ちがあれば食生活が豊かなものになるでしょう。

 禅寺では食事を作ることが大切な修行とされています、その食事を作る役を典座といいます。食事を食べることも大切な修行とされており、道元禅師は800年前に「典座教訓」を著して、食事を作ることは大切な修行であり、それを食することも修行であると「赴粥飯法」を著して「食べる心構え」を説かれました。医食同源と言いますが、身心の健康の維持とは食事を大切にすることからはじまるのでしょう。

 食事とは、作る人、食べる人、それに食物より成り立ちます。作る人は食べる人のことを考え、食べる人は作った人の心を感じること、そして、食材はいずれもが尊い生命であることにも思いをいたして感謝する心を忘れないということが大切です。作る人、食べる人、そして食物を、拝むという姿勢こそが尊いのでしょう。  
 「日常茶飯事」というけれど、日常生活において、お茶を入れることにも,料理をすることにおいても、思いやりと感謝の気持ちがあれば心豊かな生活になるでしょう。

 
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