2013年9月1日 第176話             


現代人の忘れもの

    
  仏道の身心は草木瓦礫なり、風雨水火なり。
  これをめぐらして仏道ならしむる、すなはち発心なり。
         「正法眼蔵・発無上心」(道元禅師)


日本ミツバチの自然予知能力


 近年日本ミツバチが減少していると言われています。それで日本ミツバチが増えればということで5年前から神応寺の境内に巣箱を置いています。日本ミツバチの先祖は中国の南の地域に生息していたそうで、長い年月を経て日本列島にまで住み着くようになったそうです。
 スズメバチなどの他の蜂の種類は女王蜂がたった一匹で越冬するのに対して、日本ミツバチは社会的昆虫といわれていますが、一匹の女王蜂と数千匹の働き蜂が群れで越冬します。そのために食料としての蜜を蓄えます。

 家畜として飼われている西洋ミツバチには見られないことですが、日本ミツバチ特有の生態として4月から5月にかけて分蜂という動きを見せます。越冬した親蜂の女王が数千匹の群れの半分を引き連れて新しい営巣場所を求めて巣から一斉に飛んで出ます。そして子供の女王がその巣の後継ぎになります。長女の女王蜂が、第二次の分蜂をすることがありますが、すると次女が後継ぎとなります。それが今年は次々と異常と思われるほどの数の分蜂がみられました。

 日本ミツバチは6千万年もの間ほとんど進化していない生き物だといわれています。6千万年前から命をつないできた日本ミツバチの先祖は、厳寒の気候も、灼熱や乾燥の厳しい気候をも生き延びてきた生き物ですから、種の生き残りのために自然予知能力がことのほか優れていると考えられます。

 その予知能力が働いたのか、今年の日本ミツバチの分蜂数が例年と比べてものすごく多かったのです。日本ミツバチの自然予知能力が、京都のこの夏の異常な高温と雨量の少ないことを予知していたのかもしれません。今年は沖縄周辺の海水温が異常に高いことから秋には大きな台風が襲来するか、豪雨があるか、気象の異常を日本ミツバチは予知しているのかもしれません。

天地自然に畏敬の念をもつ

 たしかに今年は8月の温度が全国的に2度高く、猛暑日が長く続きました。ところによっては集中豪雨で被害が出ていますが、雨量は少なかった。京都では35度を超えて37度にも達する猛暑日が半月以上もあり、極端に雨量が少なく、植物や動物も猛暑に耐えてきました。

 長い年月で見ると猛暑で少雨の夏はありますが、数年の短期でとらえると確かに異常といえるかもしれません。また記録的な豪雨災害も、過去に経験したことのないほどの雨量も、長い年月でみると起こりうる自然現象ですが、数年の単位では異常な自然現象かもしれません。台風や豪雨、豪雪などの気候現象のみならず、地震や火山の噴火など、天変地異は人間の思慮分別をはるかに超えたものです。

 東電の原発事故は東日本を襲った大津波による天変地異によるところと言い切れるでしょうか。想定外という言葉は天変地異には通じないことから、大規模な津波想定のもとに、第二電源を日常的に備えておき、緊急対応の処置がはかられておれば、放射能汚染は防げたはずです。

 科学技術が進むにつれて人間は自然界を支配しているという傲慢な錯覚に陥りがちです。地震を直前に感知して地震速報を出したり、スーパーコンピューターで気象の予測精度を高めることができるようになったけれども、人間の思慮分別の及ばないところがあるはずです。 人間の技術による予知能力をもってしても、日本ミツバチのような天変地異の予知は不可能です。だから予知能力を高める技術の向上とともに、大いなる天地自然に畏敬の念をもつことも忘れてはならないのでしょう。

お天道(おてんとう)さまはお見通し 

 この世に生まれてきたものは、人も、どんな生き物も、命の源であるご先祖さまから一度も途切れたことのない、何万年もの命のつながりの中に生きています。連続する命の生死の流れ、すなわち命の受け継ぎの軌跡は何万年におよびます。受け継いだ命を子孫に伝えていく、これが生命の有り様です。

 その命の源から今に至るまで、人も、どんな生き物も、天地自然から生まれ、天地自然に育まれてきました。天地自然に生かされていることから、古代より人は天地自然に畏敬の念をもって、森羅万象を神々として、命の源を先祖としてまつり崇めてきました。

 全国各地に伝わる妖怪の話や民話や伝説の中に登場する神々は大きな力、すさまじい破壊力を見せることから、人は天地自然の神にさからいませんでした。
 「壁に耳あり、障子に目あり」といいますが、悪いことをしても誰にも知られなければそれでよしと思い込んでしまいますが、どんな悪事もお天道(おてんとう)さまはお見通しです。天知る地知るで、天地の神仏はすべてお見通しです。

 しかし最近の住宅には障子がない家が多いので、障子がどのようなものであるのか知らない子供もいるでしょう。壁に盗聴器が、障子に隠しカメラが仕掛けてあるという理解をするかもしれません。お天道さまやご先祖さまを意識することもないから、悪事に走り善良な生き方を心がけない人も多くなり、犯罪が増加しています。

現代人の忘れもの 「おかげさま」

 地球は宇宙の星です。地球に生命が生まれましたが、生命をかたちずくっている炭素や窒素や酸素や鉄もみんな宇宙のものですから、生息する生き物もすべてが地球の一部であり、宇宙そのものです。
 お釈迦さまのお悟りはご自分が宇宙そのものだと自覚されたことです。だからお釈迦さまは「我と大地と有情と同時に現成す、山川草木悉皆成仏」と言われた。

 そしてお釈迦さまは、この世に存在するものはすべて天地自然のもとに生滅するものであり、すべてが関係し合って存在していると言われた。人も、生きとし生けるすべての生き物は、生かしあい、生かされあいのためにこの世に生まれてきて、死んでいく。あなたも私も、そして蚊もハエも、この世に必要だから、かけがえのない命として生まれてきた。そして、今ここに生きて、生かしあっている。

 日本ミツバチのように天地自然に同化した生活をしなくなってしまった人間の認識は、なにごとにも自分本位にものごとをとらえようとします。ところが自分本位の判断や認識では、天地自然・宇宙の法則と、かなりちがった判断や認識になってしまうから、あらゆることにおいてズレが生じます。そのズレが煩悩とか妄想で、そのために自分自身で苦しみ悩むことになってしまうのです。

 自分本位に生きることから生じるズレを起こさないためには、大いなるものに畏敬の念をもつことでしょう。大いなるものとは命の源であるご先祖さまであり、天地自然です。日本人は天地自然をお天道さまと表現してきました。そして朝な夕なに、ご先祖さまに、そしてお天道さまに「おかげさま」と、感謝の気持ちをあらわしてきました。そうすることで日々の安心と安全を得てきたのですが、現代人はこの「おかげさま」を忘れてしまったようです。日本ミツバチは天地自然の「おかげさま」のもとで、今日もせっせと蜜を集めて命をつないでいます。

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