2011年9月1日  第152話
       欠気一息  
欠気一息(かんきいっそく)し、左右(さゆう)揺身(ようしん)して兀兀(こつこつ)として坐定(ざじょう)して、
()不思量底(ふしりょうてい)思量(しりょう)せよ     道元禅師
     

ストレス

 仕事でストレスを感じて体調を悪くするのではないかと、心配している人は意外に多いようです。また女性の場合は年齢的に更年期をむかえて、家庭や職場でいろんな問題や変化が起こると、これが強いストレスになることがあります。日常生活から考えられるストレスの原因としては、仕事によること、人間関係、睡眠不足等々でしょう。そして突然のこととしては、天災に襲われたり、事故や身内や知人の病気や急死です。その他心配事が重なったりすると、心身ともに病んでしまいます。

 ストレスからくる病気はさまざまです、不眠や不安などの精神神経症状や胃痛、下痢、喉のつかえなどの消化器系症状。肩こりや腰痛などの身体症状や動悸などの循環器症状、ニキビや皮膚炎などの皮膚症状もストレスが原因でおこることがあり、ストレスの症状は心と体のあちらこちらにあらわれます。
 ストレスが原因でバランスのとれた規則正しい食事や十分な睡眠がとれないために、抵抗力や免疫力が低下することもある。ストレスを感じると心拍数や呼吸数が上昇して血圧が上がったり、汗をかいたりします。これは自律神経系の交感神経の活動が活発になるからです。

 人間の各臓器等の働きを整えるための命令を、体の状況に合わせて脳から発しています。この命令を伝達する神経は自律神経とよばれ、交感神経・副交感神経という二つの神経でなりたっている。交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキのような役割をしてバランスをとることで生命維持にかかせない呼吸、血圧、消化、排泄、体温調整など各臓器の働きを調整しています。ストレスによってこの調整のバランスが狂ってしまいます。

 ストレスの原因は外部からのさまざまな刺激(ストレッサー)によります。ストレッサーとは生物に与える何らかの刺激のことで、暑さ寒さなどの物質的な刺激や怒り不安などの心理的なものもあります。こうした刺激によって心や体に負担がかかることで、身心に歪みが生じることがストレスです。
 
日常生活でできる予防法としては、スポーツや趣味、森林浴などで気分転換をはかる、悩み事を誰かに話し相談する、重すぎる食事をさけアルコールを飲み過ぎない、リラックスして嫌なことを考えない、ぬるめの風呂にゆっくり入る、などが効果的であるとされています。

ストレスが原因でうつになる

 人の話が聞けなくなったり、人に会うことも嫌になる。集中力が衰え、仕事に意欲を感じなくなる、学校や仕事に行けない、気分が落ち込み、何をしても気持ちが晴れない、無気力になった、これまで楽しいと思ったこともそうは思わなくなり、興味があったものにも興味を感じなくなり、楽しいと感じることがなくなった。そういうことはだれにでも時々はあることですが、うつの前兆かもしれません。

 一時的なことで気持ちの転換がはかれたら、何でもなく日常生活が出来ます。ところが、自分はだれからも必要とされていない、生きている価値もないから、この世からいなくなったほうが、などと思うようなことがあったり。気持ちがイライラして自分自身の感情も自分で抑えられないとなると問題です。

 目が疲れる、身体がだるく疲れる、首や肩がこる、頭が重くなる、頭痛がする、便秘や下痢をする、食欲がない、よく眠れない、些細なことが気になってしかたがない、自分が自分でないような気がする、なかなか決断できない、理由もないのに不安な気持ちになる、そしてしだいに気持ちが沈んで憂鬱になってしまうことがある。こうした自覚症状が長く続き、かなりはげしい場合はストレス疾患が考えられるから、早めに専門医の診察を受ける必要があるでしょう。

 日常、自分はストレスを感じていても、なんとかストレスを解消できている、それでも、うつになるかもしれません。ストレスとは無関係だ、自分はそう思っていても、自分が家族や職場のだれかさんにストレスを与えつづけているかもしれません。そして、しらずしらずに自分自身もストレスを受けて、それが原因で身心が病み始めているかもしれません。自分はだいじょうぶだろうと思っているけれど、だれでもうつになる可能性を否定できません。

呼吸に生かされているから、呼吸法を見直しましょう

 何ごとにも意欲を感じない、気分が落ち込み気持ちが晴れない、落ち着かない、など、気持ちが不安定なとき、すこし時間があれば5分でも10分でもいいですから、静かに坐ってみましょう。床や畳に座って、坐禅のように足が組めなくても正座でもいいです。正座がきつければ坐布団をお尻に当てると楽に坐れます。椅子に腰掛けてもいいです、椅子に座ったら背もたれにもたれるのでなく、背筋を真っ直ぐにのばして坐りましょう。左右に前後にゆっくりと体を動かして、そして背筋をまっすぐに立てるようにすれば、よい姿勢で坐れます。生き方の心得の一つは、背筋を真っ直ぐにのばす、姿勢正しくです。

 お腹のおへその数センチ下を丹田という、気持ちを集中して丹田からゆっくりと息が出て行くように腹式の呼吸をする。悩みが深刻であればあるほど、他の悩みごとまでもが合わさってより悩みが深くなってしまう。それで呼吸に神経をふり向けると、悩みに向っていた神経もその活動が弱くなるから、呼吸法を変えると気分転換になる。お腹の底からゆっくりと息を吐き出す呼吸法をしてみましょう。生き方の心得の二つは、ゆっくりと吐き出す呼吸法、長息です。

 目はつぶらずに少し前に視線をおとして、次に右の手のひらを上にして左の手のひらをその上に重ね、両の親指を向かい合わせにして、つかず離れず、手のひらに卵が一つ乗っているような感じで、臍下丹田のあたりに、ここに気持ちをおくようにすれば、心も自ずから落ち着いてきます。頭に考えをめぐらすことなく、心の働きもしばし止めて、何ものにも執着せずに、とらわれなければ、気持ちもゆったりとしてきます。生き方の心得の三つは、執着しないこと、とらわれない心です。

 欠気一息(かんきいっそく)とは、気(いき)を長く吐き出して呼吸を整えることです。お腹の底からゆっくり吐き出す呼吸法で自律神経のバランスが整い、リラックス状態になります。姿勢正しく、長息、とらわれない心、この三つを生き方の心得としたいものです。

毎朝一番に、背筋伸ばして肩の力を抜き、ゆっくりと息を吐き、呪文を唱える・・・
「今日は良いことがある、悪いことは起こらない、過去は考えない」


 過度にストレスがかかっているのに「ストレスがない」と思っていないでしょうか。また、いやな出来事や悲しいこと辛く苦しいことばかりがストレスの原因とはかぎりません。結婚、昇進など本人にとってうれしいはずのことが、ストレスを生じることもあります。こうしたストレスは気づくのが遅れがちです、「何となく調子が悪い」といった身心の不調のシグナルを見逃さないことです。ストレスの原因の多くは生活習慣にありますから、ストレスになりやすい生活習慣かどうか、自分でチェックしてみましょう。

 今の私は、去年の私、昨日の私ではない。未来の私、明日の私といっても、それは一瞬のことで、もう今の私、過去の私です。身体の細胞はたえず生まれて死んで、一時も同じでないから、いつも新しい私で、一分一秒たりとも同じ私でない。だから過去や未来にこだわらず、今の私を生きることです。
 ストレスに負けない心をつくるには、自分と向き合い、ストレスの原因がどこにあるのかなど、現状の問題点を冷静に洗い出してみることです。プラス思考を心がけ、無理をせずにゆっくりと取り組んでいくことです。

 元日本サッカー監督のイビチャ・オシム氏が脳卒中の闘病体験を語る中で、「日本の人々は、この仕事を失敗したら明日はないという恐怖心におい込まれているようだ。多少の失敗をしても明日の心配をしなくてよいように、リラックスできる社会であるべきだ。人は勝つこと、成功することだけを考えて生きるべきでない。まずは生き残ること、敗北や失敗とも上手く折り合いをつけて生きていかなくてはいけない」日本のストレス社会をこのように語られた。

 応無所住而生其心(応に住する所無くして而も其の心を生ずべし)と金剛般若経にありますが、悲しみや他人への怒りの気持ちなど、いつまでも引きずっていても、なんら良いことにつながりません。水は方円に従うの言葉通り、水を方形に入れても円形に入れても三角の器に入れても、形は変わるけれど水であることにかわりはない。執着する心のはたらきがあってはならない、何ものにもとらわれない心で日々生きようと心がけることが、一番の健康法です。


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