「鐘の音」   和尚の一口話               1999年9月1日

     第八話   すべからくなるべし  

      
我がものと 思うものを 貪り求める人は、
       憂い、悲しみ、ねたむ心を離れることができぬ

                           
 《スッタニパータ》



 保険金をねらった事件がこの頃世間を騒がせています。
和歌山でおきたあの毒物入りのカレーライスによる殺人事件、今、裁判がすすめられており事件の詳細が法廷で、あきらかにされています。

 そして今度は、夫を殺し、我が子をも殺す母親の保険金目当ての殺人事件が報道されている。なんとむごいことを、そして腹を痛めて生み、身をけずり育てたかわいい我が子まで、どうして殺せるものなのと、共犯の男とはどんな人物なのかと世間ではさまざま論評が飛び交っています。


 いずれも保険金が絡んだ現代の事件であり、大金を手にすることができるという保険の仕組みを悪用したものである。
 人の命は儚いことから、いざという時にお金が遺族の支えとなる、いわば相互扶助の金融これが生命保険です。けれども迷った人がお金を使うと、お金は魔物になります、そしてその結末はいつも悲惨なものです。欲望という魔物に自分の心が縛られると、どんどん深みに落ち込んでいくものです。


 
現代、この経済合理社会では、老いも若きも皆,お金を頼りに人々の心は揺れ動いています、幸せも、人の値打ちもお金しだい、とでもいうのでしょうか。
 「欲というのは悪いものではない、一つのものが手に入ると、もう他のものが欲しくなる、これを強欲という、これで皆が苦労するんや」 清水寺の管長であられた大西良慶老師がよくおしゃった言葉です。
「欲深き人の心と降る雪は、積もるにつれて道を忘るる」と古歌にもあるごとく、むさぼりにこだわって、身も心もほろぼさぬよう心がけたいものです。


 「すべからく貧なるべし」とは、道元禅師が繰り返し繰り返し教えられたことですが、あわせて「汝、足を知るべし」のお示しとともに、いつも新鮮な気持ちで頭の片隅にとどめておきたいものです。


         おろかなる 心一つの行く末を
       六の道とや 人のふむらん
 道元禅師
    
          愚かな心がはてのない迷い道へと導く、人々は六道輪廻といって、
          常に歩んでいる、あやまった考え方がそうさせている

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