「鐘の音」   和尚の一口話   20001年11月1日

 第三十四話 一椀のあたたかさ   
      ぼんげん     み
      凡眼をもって観ることなかれ     
        ぼんじょう   おも   
     凡情をもって念うことなかれ


 NHKの朝の連続テレビ小説の「ほんまもん」が人気をはくしています。食いだおれの大阪で、本物の料理人になりたい木葉の役を、ヒロイン池脇千鶴さんが、元気いっぱい演じておられる、茶の間にその息ずかいが伝わってきて、とても楽しい番組です。

 今から770年ほど前に、道元禅師は「典座教訓」という教えを著して修行僧の食事をつくる典座(てんぞ)職の任務と心得をとかれました。
 食事を調理しととのえるとき、その食材について凡眼(凡夫の見識でものを差別的に見て良い悪いの判断を下し、取捨選択をするというような考え方)をもって見てはならない、凡情(いいかげんな気持ち)でことを考えてはならない、食材や器物はすべて眼睛(目の玉)のように大切に取扱い、精魂こめて典座の勤めに努力せよと教えられました。


 たとえば粗末な菜っ葉を用いてお汁やおかずをつくるとしても、いいかげんに扱う心をもって調理してはいけない、また上等な食材だからと浮かれたりする心を起こしてはならない。醍醐味(最高に美味)というごちそうをつくるときも、粗末な菜っ葉の料理も、まごころと清らかな心で同じように調理したいものです。

 品物の善し悪しに引きずられたり、食する人によって、態度や言葉を変えるべきではない。生き生きとした眼を見開いて、一枚の菜っ葉を扱うのにもいかにも成仏するように、仏の光明を菜っ葉一枚のうちに輝かすようにしたい、これが生きとし生けるものの命を生かすことです。


 美食、飽食があたりまえの時代では、見ばえの良い食材を市場に出すために、食物を捨てたり、薬害や不自然な加工が問題になっています。輸入食材をめぐる問題、食糧資源乱獲の批判など国際的にひんしゅくを買うことはさけたいものです。

 国を超えた食料問題が21世紀の課題です、狂牛病だけでなく人間の食べるものについて、新たな事象が今後も世界各地で発生するでしょう。環境破壊がすすみ、地球温暖化が加速して気候変化は食料不足をもたらすでしょう、アフガニスタンのみならず、内戦や国際紛争による飢餓難民の救済がさらに問題になってきます。


 飽食、偏食は肥満や病気につながります、食事への警告が発せられています、健康のためには節食をこころがけましょう。 
 私たちは生きるために「もの」を食べます「もの」はすべて仏のいのちです仏のいのちである「もの」を食べて、自分という仏のいのちを生かしてもらっています。

 美食、飽食の世だからこそ凡眼をもって観ることなかれ凡情をもって念うことなかれ 食のこころとは、一椀のあたたかさを調理し、一椀のあたたかさを味わい知るということでしょう。アフガニスタンの戦火の下で、何もかも失ってしまった人々が、一椀のあたたかさを得ることができるでしょうか。

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