「鐘の音」   和尚の一口話   2001年10月1日

 第三十三話  
不殺生   

               
 
不殺生とは 他を生かすこと
 他を生かすことは 自己を生かすこと



 世界中の人々が震撼する大事件が9月11日夜起こった、人々はテレビのニュースにくぎ付けになりました。同時多発テロは、六千人を超える人々の命を道連れにした犯罪です。ニューヨークは国際金融と経済の中心ですから、犠牲者の国籍も世界約80ケ国に及ぶというから、単にアメリカ一国の問題ではありません。

 テロの首謀者はウサマ・ビンラデインでアルカイダというテロリストの集団がこの事件に関与しているとアメリカは報道しています。そして、事件の背後にイスラム原理主義組織があり、アフガニスタンの実行支配勢力 ・タリバンはイスラム原理主義に基づき、この国を実行支配している。テロの首謀者達と実行支配勢力・タリバンとは行動を一にしているという、したがってアフガニスタンが報復の対象となるそうです、しかもタリバンは隣国パキスタンとも強い結びつきがあるといわれています。

 そして、中東各地にはタリバンを支持するイスラム原理主義者が大勢いるという、さらに、アフガニスタン北部にはタリバンと対抗する勢力があり、内戦が続いている。このような複雑な状況の地域で、報復行動がどのように始まるのだろうか、世界中の人々が注目しています。


 
アメリカ議会上下両院で報復行動の議決がなされた、バーバラ・リー下院議員一人が報復の武力行使に反対した。彼女はイラク空爆にもコソボへの部隊派遣でも、下院で一人反対したそうです、理由は「だれかが自制を求めなくてはならない、少し立ち止まろう」人々に冷静な判断をもとめたものでした、なぜテロが尽きないのか、なぜ繰り返しテロが起こるのかが問われることなく、武力行使による報復のみが先走りしています。

 どんな戦争でも、自分を善、敵を悪と決めつけて、この戦争は「聖戦」だと主張する。テロの首謀者を殺したところで、テロが地球から消え去ることはないでしょう、仇を仇で返せば永久に仇の尽きることはない、だれかが自制を求めなくてはならない、少し立ち止まろう、ということでしょう。


 
アフガニスタン という国で、戦争が始まろうとしています、この国は二十数年間続いている内戦によって世界で最も貧しい国だといわれる、内戦状態にあるこの国に対して、世界の超大国アメリカが同盟国の協力を得て、報復攻撃をかけようとしています。

 この地域のことを良く知っているジャーナリストが言った言葉が耳に残って消えない、「この国の人達は自分の命の他に、捨てるものを何も持たないのだと」。この戦争は自分の命の他に、捨てるものを何も持たない人達と、捨てきれないものを、あまりにも沢山持ちすぎてしまった人達との争いであるのかもしれません。内戦下で育った人々が、内戦に明け暮れしている、内戦と貧困にじっと耐えている人々や女性と子供の嘆き悲しむ声が聞こえてきます。

 
イスラム原理主義にもとずき命を捨てることが名誉ある行動だと洗脳された人間は、自爆しても、そして他の命を抹殺しても、後悔しない。
 この事件はテロリスト集団の野蛮な残虐非道の自爆テロであって、テロリストを非難しても、宗教や民族に係わる国際問題とすべきでないとされているが、イスラム原理主義を生み出した宗教的背景と、民族紛争、経済的側面を無視することはできないでしょう。

 お釈迦様が教える不殺生戒とは「生きとし生けるものの命を大切に、という教えです、すなはち、生きとし生けるものを生かすこと、他を生かすことです、他を生かすことは自分をも生かすことです」。

 不殺生戒は仏教だけの教えではありません、宗教や民族のちがいをこえた普遍の教えです。この人類普遍の教えを民族・宗教・経済・環境等全てに当てはめて、地球人類の問題として、声を大にして「不殺生」を呼びかけなければならない。

     戻る