「鐘の音」   和尚の一口話         2000年7月1日

    第十八話  暑さ寒さの無いところ     

  
心配ごとや、悩み苦しみごとこそ、天からの贈り物と
   
ありがたく受け取りたいものです


 「子供が学校へ行きたがらない、家に閉じこもりがちで心配です」子育ての親の悩み、「姑が足腰がすっかり弱って、痴呆もひどくなってきた」姑の介護を、家で一人でなさっておられる女性、ご自分も七十歳になり、毎日がとても辛いと話される。
 人はそれぞれなんらかの悩み苦しみごとを、一つや二つは持っています。老後のこと、病気のこと、経済的なこと、人間関係や、家族のことなど、さまざまです。

 昔中国に洞山良价禅師という方がおられた、ある日一人の僧が「暑さ寒さから逃れるのには、どうすればよいのか」と、尋ねた。
 禅師答えて曰く「暑さ寒さの無いところへ行けばよろしかろう」と、 そうすると「それはどこにあるのか」と、一人の僧は再び問うた。 「暑い時には暑さになりきり、寒い時には寒さになりきる、そこが暑さ寒さの無いところだ」と、洞山良价禅師は答えたそうです。


 人間関係で、あの人は嫌な人と思えば、何事もうまく運びません、けれども自分を含めて人は皆、長所と欠点がありますから、その人の欠点ばかりを拾い出すのでなく、長所を見いだすようにすれば、その人と関係改善がはかれることがあります。

 これは自分に合わないとか、嫌な仕事だとか思っていたけれども、世の中には役に立たぬものなどありませんから、工夫・改善によって、気づかなかったおもしろさや楽しさを発見することがあります。 相対としてとらえずに、目線を同じくしたり、 自分のこととしてとらまえたり、 世の中のお役に立ちたいという気持を強く持つこと、すなはちすべて発想の転換が大切です。

 老いを嘆くより人生経験豊かなことに誇りと自信をもって自己を生かすべきです。病に負けることなく、生かされている命を どんなかたちででも輝かせることです。

 「心配ごと悩み苦しみごとからのがれるのにはどうすればよい」
 「それは心配ごとや悩み苦しみごとのないところへ行けばよい」
 「そんなよいところはどこにある」
 「それは心配ごとや悩み苦しみごとと、上手につきあうことです」

 心配ごと悩み苦しみごとがあるのは、今、生きているからです。
心配ごとや、悩み苦しみごとの中に、喜びや楽しみ、また生きる希望の種が、芽が、あるのです。そう思えばこの世は楽しくもあり、希望に満ちあふれています。この種をうまく育てて、花を咲かせることが、悩み苦しみから逃れる方法です。


   心配ごとや悩み苦しみごとこそ、人生の良きパートナー、
   天からの贈り物とありがたく受け取りたいものです。


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