第80話      2005年9月1日

       浄信

  浄信一現するとき、自佗同じく転ぜらるるなり  道元禅師

      浄信とは、心が清らかに澄み、明るく静かなる喜びに満ちあふれた心です、
       我欲や私心なきところに、自分もそして他人もみな同じくその心に転回が起こり、
       日々、悩み苦しみなき安らぎに生きることができる。


家具調仏壇

 若いご夫婦からお仏壇を新調したので、お開眼をしてくださいとの連絡がきました。この家には小さな仏壇があったのですが、新調され、新しいご本尊さまもおまつりされました。それは現代風の家具調というお仏壇で、デザインがシンプルで今風建築のお部屋に合ったタイプのものでした。そして仏壇の花立て、燭、照明のいずれもが、今風のお部屋の雰囲気にマッチしたものです。

 この家の子供さん二人はまだ幼いのですが、新調仏壇のお開眼に、ごいっしょに手を合わせておまいりしてくれました。お仏壇といえば、おじいさんおばあさんの合掌する姿をイメージされる方も多いでしょう、お年寄りは孫達に朝な夕なに仏壇や神棚におまいりすることを身をもって教えていた、そんな後ろ姿を見て子供達は育ったのです。
 核家族化の時代にはこのような風景はごくまれになりましたが、新世代の家庭には現代風の家具調仏壇がよく似合います、この家の子供達はこれからも日常的にこの仏壇に手を合わせるでしょう。

 いにしえより、お仏壇や神棚は家の中心であり、おまいりすることが日々の生活のはじまりであり終わりでした、朝な夕なに仏壇や神棚におまいりする親の後ろ姿を見て子供達は育つでしょう。
 
人間もまた一つの小宇宙

 人はこの世(大宇宙である仏の世界)に生まれてきて、死んで大宇宙の天地に帰す、魂はホトケとなって大宇宙に一体化する。大宇宙に一体化した魂は、ホトケすなわちご先祖として、命の落ち着き所として形ずくられた墓石にまつられます。

 卒塔婆は五輪塔をかたちどったもので、地・水・火・風・空の五大要素を象徴しています、宇宙の表現でもあります、人間もまた一つの小宇宙としての五大要素になぞってみれば、地=からだ、水=血液、火=体温、風=呼吸とされ、これらがうまく溶け合った状態が空と考えられています。五輪塔は宇宙のシンボルであり同時に、仏、人間をシンボル化したものです、元来は石で造ったものですが、次第に簡略化されて木の卒塔婆に変わってきた。卒塔婆はストーパ(仏塔)という言葉がもとだとも言われています。

 人は生まれるべき因縁のもとにこの世に生まれてきた、そして死んで天地に帰す、すなわち自然(仏の世界)に一体化すると考えられてきた、そして形づくられたのが墓石です、それは命の落ち着き所であり、魂はホトケすなわち命の源であるご先祖として悠久にまつられます。ご先祖さまは自分の命をもたらしてくださった方々、命を育んでくださった方々、命の源です、このことに感謝してお墓におまいりすると親しみがわいてくるでしょう。  

共生きの世界

 お仏壇は家にありますから、朝な夕なにおまいりすることができます、でもお墓については、お墓まいりをいつすればよいのか、という質問をされることがあります。答えは簡単で、心に思いが起こった時ならいつでも、ということです。年忌法要、毎年の祥月命日、春、秋の彼岸、お盆、これらおりおりの墓参に加えて、結婚、誕生、卒業、合格、就職、家の改築、など、人生の節目にもおまいりしたいものです。

 墓参には「水」が不可欠で、この水を「アカ水」と呼んだりしますが、これは梵語の供養を意味するアルガからきたといわれています。私たち人間は、水がなかったら生きていけない、人間に限らず、あらゆる生き物がそうであり、水は生命の源です。墓石を浄め、水鉢もきれいにして浄水を満たし、花など心からお供えしましょう。

 人も、一切の生きとし生けるものも同じく、お互いの命を支え合ってるから生きていける、この共生きの道理と天地自然の恵みによって命が生かされています。天地自然の恵みに感謝すること、共生きの世界に生かされている命を尊ぶことを忘れて、ただ最も近い肉親の霊位のみに思いをよせているのが現代人の姿でしょうか。

お彼岸は先祖まつりの日です

 分家であろうが、亡き親族の霊位の有無にかかわらず、どこのご家庭でもご先祖をまつること、礼拝する対象仏をまつることは可能ですから、心のよりどころとなるお仏壇が身近にあると、毎朝、真っ直ぐに線香を立て手を合わすだけでも、日々の生活において安らぎと潤いを得ることができるでしょう。

 「神さま、仏さま、ご先祖さま」と毎日祈り礼をつくすことはけっして「古くさい習慣」ではないはずです。命の源であるご先祖さまを敬うことによって、いただいた命の尊さを忘れずに、そして神仏のご加護により日々安心して生活できていることへの感謝の気持ちも大切にしたいものです。
 仏壇や、墓石の前で頭を垂れ手を合わせましょう、ご先祖から繋がる尊い命を思い、家族や有縁、無縁のもの、さらには生きとし生ける一切のものとの共生きの喜びにも思いをめぐらしましょう。

 ものの豊かな時代は心の不安の時代、命の輝きを感じなくなってきつつある時代です。お仏壇やお墓におまいりすることによって、命の尊さを思い、先祖や両親への報恩感謝の心と自らの向上心が醸成されて、心の安らぎと幸せの実感を得ることができるでしょう。お彼岸は先祖まつりの日です、家族みんなで仏壇とお墓にお参りしましょう。

 
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