第72話      2005年1月1日
            光のどけき春の日に
 
   会得一日静 正知百年忙  夏目漱石
      光のどけき春の日に、静かな一時を持つことができれば、
      多忙に明け暮れしてきた生涯において、何が真実である
      かを正しく知り得るでしょう。


百年前

 夏目漱石さんの肖像画の千円札が少なくなり、野口英世さんに、新渡戸稲造さんの五千円札が樋口一葉さんに入れ替わりつつありますが、夏目漱石さんが多くの小説を書いたのが百年前です。夏目漱石さんと樋口一葉さんさんは同時代の人で明治を代表する文学を残されました。

 ともに明治を生きた作家でありますが、樋口一葉さんは24歳の短い生涯でした、夏目漱石さんは49歳で亡くなられました。ちょうど百年前は夏目漱石さんが作家として最も輝いていた頃です「我が輩は猫である」「坊っちゃん」などが書かれた時代です。また百年前に日露戦争が勃発しました、洋の東西において世界の潮流が大きく変わりつつある時代でもありました。

高齢化社会

 夏目漱石さんは49歳で亡くなられましたが、ちょうど百年前の日本人の平均寿命は50歳くらいでした、60歳の還暦まで生きれたら、それはめでたく、70歳は古来希なりとしたから古希を大いに祝った。だいたい日本人の寿命は50歳ないし55歳程度で推移してきましたが、近年急激に寿命が延び、80歳を超えて生きる高齢化の時代になったのです。

 人間の大人に成長する過程を20年間とすると、50歳平均寿命時代での大人で生きたのは30年間であり、今日のように80歳まで生きる時代では、大人で生きるのは2倍の60年間ということになります。日本人は高齢化社会において先人の時代の2倍を生きることになるから、その生き方が根本的に変わらなければ長寿社会を生きる意味がないということでしょう。

長寿の時代に生きる


 戦後の一時期に生まれた団塊世代は人口の5%いますが、これから数年間にこの団塊世代がリタイヤしてこれから人生の半分を生きることになります。作家の渡辺淳一さん流に言えば、今の55〜65歳をプラチナ世代と呼んで、おおいに輝けとエールを送っています。また、大手広告業の博報堂さん流に言えば、今の65歳〜75歳を金時持(かねときもち)世代と呼んで、充実した日々を持つことをすすめています。我が国では2006年をピークに人口が減少していきます、今、50歳以上が人口の4割です、いよいよ日本は高齢化社会に移り変わって行きます。

 夏目漱石さんから野口英世さんに、新渡戸稲造さんから樋口一葉さんへ、新札の人々が生きた時代と比べて2倍も長生きする高齢化社会に生きる現代人は、人生をどう生きるか、キーワードを「共生き」にしたいものです、むろん人と人そして人間と自然、ともに生きるということです。「自らが幸せになりたいと願うならば、他を幸せにすることです、他を幸せにしなければ、己に幸せは来ない」 お釈迦様のお説きになったこの因果の道理を、長寿の時代に生きる人々は、生き方の基本理念にしたいものです。

万福多幸を願う

 清水寺の管長さまが毎歳末にこの一年をふりかえって、公募した世相を語る文字を揮毫されますが、昨年は「災」という字でした。天地自然に生かされている私たちは、また地震や水害などの災害にも遭遇します、また戦争や人間の醜態の犠牲になることもある、被災した方々やさまざまな苦しみに泣く人々の悲しみに心痛めて、この一年が光のどけき春の日のような、静かな年でありますようにと、年頭にあたり願うことから「共生き」の一年の歩みを始めたいものです。

 正月は年のはじめの月、元旦の旦は夜あけで元日の朝です、地球は24時間で一回転して一日、そして太陽の周りを365回転しながら一回りして一年です、その最初の日が元日です。正は一を止めると書きます、正とは直き道すなわちタダシキの意味があります、それで一年の始まりの日に身も心もともに正して、この一年の万福多幸を願うのです。

 今から百年前に生きた文豪の夏目漱石さんが 「会得一日静、正知百年忙」 という言葉を残しています。新春を寿ぐ元日の朝、光のどけき春の日に、静かな一時を持つことができれば、多忙に明け暮れしてきた生涯において、何が真実であるかを正しく知り得るでしょう、我が身をふり返る静かな一時を持つことはすばらしいことです。

 
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