2023年1月1日 第288話
             
光陰
   (いたず)らに 過ごす月日は 多けれど 
       道をもとむる 時ぞすくなき  
道元禅師

人生に、三つのステージあり

 現代の日本は総人口に占める65歳以上の人口の割合(高齢化率)が28.4%です。一昔前までは人生五十年といわれてきましたが、ここ50年ほどの間に寿命が延びて、今では人生百年時代といわれるようになりました。ご夫婦そろって九十歳を超えてというのもめずらしくありません。けれども、食事・入浴・用便で、他の人の介助なく自分でできるということになれば、男女の平均で83歳ぐらいでしょうか。それで今の日本人の生活元気年齢の限度をを83歳として、日本人のライフスタイルを、三つのステージで設定してみました。

 現代の日本人の人生における生活ぶりを、一万日という区切りで見ると、はっきりとその姿がイメージできそうです。すなわち人生には三つのステージがあり、それぞれが一万日です。
①人生の第一ステージ・0歳~27歳、0~一万日を生きると27歳になる。人が誕生して、親に育てられ、教育を受けて成人し、大人になる。仕事もするし恋もする。
②第二ステージ・28歳~55歳、0~二万日を生きると55歳。伴侶を得て結婚し、家庭を持って夫婦生活をいとなみ子供を産み育てる。体力もあり自己の能力技術を発揮して社会に役立つ仕事をする。充実した人生のもっとも輝く時期です。
③第三ステージ・56歳~83歳、0~三万日を生きると83歳。第三ステージの生き方が人生の良し悪しを決定づける。充実していれば一生一代が幸せであり、これが高齢化社会の課題です。
④第四ステージ・84歳~、0~四万日を生きると108歳。第四ステージは「おまけ」です。

 人生三万日というけれど、人生の半分である四十年間は寝て食ってトイレに入って、そして、9万食、10トンの食料を食べて、水を五十㍍プール四杯半も必要とするということです。いったい人は何のために生まれてきたのでしょうか。それは他の生き物と同様に子を産み育て良い子孫を残すためでしょう。だがそういってしまえばそれだけのことになってしまいます。それで、いくつになっても、心身ともに健康で活き活きと活動できて、経験と知識と技術を生かして仕事ができる、社会に貢献できる、生き甲斐や楽しみを求め続けることができる、とりわけ第三ステージではそうありたいものです。

 現代の日本人の一生を一万日で区切り、それをライフステージとすると、そこからライフスタイルすなわち、「人生や生活に関する考え方」がはっきりとイメージできそうです。
 若いときは自分の生き方として、将来に思いをめぐらすというよりも、今が楽しければよいということで、今だけの享楽にふける生き方になりがちです。また第三ステージに至るまでは幸せとは何か、などと考える余裕もなく、日々があわただしさの中で過ぎ去っていくようです。けれども第三ステージでは自分自身が「幸せとは何か」をつかんでないと、日々無味簡素な日暮らしになってしまうでしょう。だれでも自分の一生の生き方を時系列で考えることがあります。来るべき未来に思いをいたし、また歩んできた過去をふり返る、そして今を考えるのです。


時は人を待たず

  古来よりインドでは、人の生き方として、四住期といって人生を四つに区切って、学生期、家住期、林住期、遊行期の四つのステージをもって生きることを理想とする考え方がありました。
1,学生期 勉学に励み、禁欲の生活をおくる
2,家住期 結婚して子供を育て、神々をまつり、家の職業に従事する
3,林住期 家長が一時的に家を出る、それまでにやろうとして果たし得なかった夢を実行に移す
4,遊行期 一時期を経て家に帰るのですが、聖
(ひじり)となればもとの生活に戻らないで遊行の生活をおくる

 中国の孔子曰く、「吾十有五而志於學、三十而立、四十而不惑、五十而知天命 六十而耳順、七十而從心所欲、矩不踰」、(吾十有五にして学に志す、三十にして立つ、四十にして惑はず、五十にして天命を知る、六十にして耳順ふ、七十にして心の欲する所に従いて矩を踰えず)とあります。

 現代の日本人は百年前に生きた人たちと比べると、一万日長く、二倍の人生、三万日を生きるようになったのですが、現代人の一万日を、それぞれインドの四住期と、孔子の言葉に当てはめてみました。
①人生の第一ステージ、0歳~27歳 は、四住期では学生期であり、孔子の言葉では吾十有五而志於學です。   
②第二ステージ、28歳~55歳は、家住期であり、三十而立 四十而不惑です。   
③第三ステージ、56歳~83歳は、 林住期であり、五十而知天命 六十而耳順です。
④第四ステージ、84歳~ は、 遊行期であり、七十而從心所欲 矩不踰です。

 千年前、平安時代の頃の日本人の寿命は四十歳ぐらいだったといわれています。また、百年前に生きた人たちと比べても、現代の日本人は一万日も長く、三万日を生きるようになったのです。急速度で到来した人生百年の時代では、大人期間を実質二倍も生きるようになりました。人生五十年の時代では、子を産み育てるや命尽きたのですが、現代では、多くの日本人がさらに三十年間も長く生き続けるようになったということです。時は人を待たず、今すぐにそれぞれの生き方を考えてみてはいかがでしょうか。


光陰は矢よりも(すみやか)なり、身命は露よりも(もろ)

 地球は一日・24時間で自転しながら太陽の周りを公転しています。どのくらいの早さで自転しているかといえば、地球一周を赤道上で計るとおよそ4万キロメートルですから、赤道付近の自転速度は秒速463メートルになります。新幹線が時速300キロメートルで、秒速にすると、83メートルですから、地球の自転速度がいかに早いかということです。

 また地球は365日で太陽の周りをまわります。その公転速度は秒速29.78キロメートルという、すさまじいスピードです。さらに太陽系が銀河系を公転する速度は秒速220キロメートル、これはもう人間の思慮分別のおよぶところではありません。地球の自転という姿でとらえると、時の過ぎゆくさまが、そしてすごく速いことが、なんとなくわかります。ところが宇宙という広がりの中では、天文学的に理解はできても、人間の認識をはるかに超えたものであるから、実感がわきません。

 地球上のどこであっても、一日は24時間、一年は365日で同じです。朝に太陽は東より出て夕べには西に沈むけれど、日の出・日の入りの時刻は日々同じではない。夜空に輝く星々も刻一刻とその位置が変化している。
 時の流れが止まらないように、すべてのものは同じ状態をとどめることはありません。万物は、時の推移とともに移り変わっていきます。あらゆるものは瞬時たりとも、同一でありえないから、お釈迦様は諸行無常といわれました。

 私たちは、父母の出会とさまざまな条件がそろったことによって、この世に命を受けました。けれども、生まれてくる前は何もなく、実体が無い。そして死んでしまうと、何もかも消滅してしまい、また実体が無くなる。この世に存在するもので、永遠不滅のものは何一つない、今生きている、実在する命も永遠不滅でないことから、お釈迦様は諸法無我といわれました。いつまでも若くありたい、いつまでも愛する人とともにいたい、そう願うけれど思いどうりにならないのがこの世の中です。


虚しく光陰をわたることなかれ

 織田信長公が死の間際に自ら口にしながら舞を舞った能「敦盛」の一節に、「人間(じんかん)50年、下天(けてん)のうちをくらぶれば、夢幻のごとくなり、一度生を受け、滅せぬもののあるべきか」とあります。人の一生は所詮50年にすぎない。天上世界の時の流れに比べたら、夢や幻のようなものであり、命あるものはすべて滅してしまうものだということです。
 長らく人生五十年といわれてきた時代と比較すると、人生百年時代では、実質二倍の人生をどう楽しく生きるかというのが人々の課題です。だが長寿時代に生きている現代人には、理想的な生き方が見えてこないようです。

 石原裕次郎さんの歌に、「わが人生に悔いなし」というのがあります。「鏡に映るわが顔に、グラスをあげて乾杯を、たった一つの星を頼りに、はるばる遠くへ来たもんだ、長かろうと短かろうと、我が人生に悔いはない」という歌詞です。人はそれぞれが目標とする、一つの星を持っているでしょうか。人生百年時代と言われるようになりましたが、はたして長生きは幸せなのだろうか、短命は不幸なのか、その判定の基準はあるのでしょうか。

 二千五百年前に八十歳を生きた驚異的な長寿の人がいました、それはお釈迦さまです。お釈迦さまは今際
(いまわ
のきわ)まで人々に生き方を説かれた、しかし健康で長生きしようとは説かれなかった。命はいつ尽きるかわからないからです。だから自分自身が(この世の真理をさとった人)であることに目覚めて、自分の生き方を変えて、悩み苦しみのない生き方をしましょうと説かれました。

 人の一生のさがしものは「幸せとは何か」ということでしょう。たぶんそれは、利他の生き方を基本とすべしということで、自分が、他から必要とされ、他から感謝され、他から尊敬される、そういう生き方ができておれば、幸せであるということでしょう。

 人生には出発点があり終着点がある。出発点はわかっているが終着点はわかりません。だからいつでも、今、これでよしといえる、そういう生き方が望まれます。「生まれてきてよかった、生きてきてよかった」と思える日々であれば、その人は幸せな生き方ができているということでしょう。
 らに 過ごす月日は 多けれど、道をもとむる 時ぞすくなき
光陰は矢よりも迅
(すみやか)なり、身命は露よりも脆(もろ)し、虚しく光陰をわたることなかれということでしょう。

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